文献紹介

岸本充生(2008)「LCAを支える理論と手法-Part5 ヒト健康影響の理論と指標」
日本LCA学会誌,Vlo.4,No.4,401-407

死亡影響と非死亡影響をどのように統合するか,DALYとはどのように導出されたもので,また,医療などほかの分野ではどのような共通指標が使われていて,それらとはどのような側面で異なるのか。
本稿では,共通指標はどうあるべきを検討しており,さらにそれらの倫理的および実証的裏付けを探っている。そして,時間ベースの2種類の指標についてその成り立ちから,ウェイトの導出方法や理念,そして最新の動向まで述べられている。
こういった概説がほしかったところで,そしてなかなかこうやって体系的に,簡潔にまとまっているものがなかったので,非常に参考になった。
そして,以下の点は,特に素人がこういった統合指標を使うときに一番陥りやすい点だと思うので,いまの段階で知っておくことは非常にためになる。

もう1点,あまり詳しく触れなかった点は,費用便益分析と費用効果分析の間の関係である。費用便益分析は,理論的には厚生経済学に基礎づけられており,便益は支払意志額(willing to pay:WTP)によって計測されている。WTPと獲得余命年数にはあまり相関がみられないため,費用効果分析の効果の指標として余命年数(QALYやDALY)が用いられると,両者は整合的でなくなる可能性が高い*1

*1:Patrick Hofstetter, James K. Hammitt (2002) "Selecting Human Health Metrics for Environmental Decision-Support Tools", Risk Analysis, Volume 22, Issue 5, 965-983