ナノマテリアルを定義するな

ナノマテリアルのRegulatory Scienceの大御所Andrew Maynard氏の論説がNature誌に掲載されたらしい(Nature 435, 31)。それに伴い、彼のブログに初稿版が掲載されている。
Nature誌の当該記事だと読むのに32ドルかかってしまうところを、イキなはからいをしてくれている。

Don’t define nanomaterials ? the evolution of an idea
by Andrew Maynard on July 6, 2011
http://umrscblogs.org/2011/07/06/dont-define-nanomaterials-the-evolution-of-an-idea/

ナノマテリアルの”なにを”定義するなと主張しているかというと、それは”ナノマテリアルが一律に定義できること”だと筆者は言っている。
現在の科学的知見からは、ナノマテリアルのリスクは材料により、サイズにより様々で、そこに一律で明確な定義ができないのだそうだ。それに対し、各国政府等の規制当局は、ナノマテリアルの規制に躍起になっているため(・・・ emphasize heavily the need for science-based regulation with respect to engineered nanomaterials)、科学的な根拠に基づかない一方的で非科学的な規制導入になりつつあり、筆者はそのような流れに対して警鐘を鳴らしている。
確かに、現在、各国規制当局はナノを規制するために、ナノの性状や有害性を統一的に定義したがっているように見える。しかし、ナノを規制(定義)することが目的化してしまい、科学的な根拠から乖離し始めている。
このような動きは、本質的な問題を解決不能にし、また、今後対処せざるを得ないであろう新興リスクへの対応に必須の「レスポンスの早い」「順応的な」規制の導入を阻害する要因にもなりうるのだろう。
なるほど。

防災から減災へ

ある方のツイートより。

「防災から減災へ」って、言い換えると、「ハザードベイストからリスクベイストへ」ということだ。自然災害対策もリスク評価・管理に基づく時代がきたわけだ。

最近で一番うなった一文。
同様の傾向は、温暖化への適応策(温暖化を受容した上で対策をとろうとする考え方)でも見られる。しかしながら、化学物質の分野と違ってこれらは自然災害だから、「仕方なく受容する」という部分のハードルはかなり低い。

放射性化学物質の基準の段階的変更は可能か

ICRPは汚染状況に応じた段階的な曝露基準を提案しており、ここでの提案(ベラルーシで実際に講じられた措置)は、それと親和性のあるものである。

ベラルーシの25年 段階的な対策に学ぶ
FOOCOM 2011年7月4日
http://www.foocom.net/column/answer/4441/

しかし、基準値を段階的に下げることについて、今の日本では「だったら始めから低い基準値を設定すべきだったのではないか」という世論が盛り上がるのは確実だ。しかしこれは至極当然の意見でもある。。
最近、メディアに出てくる放射性化学物質のヒト健康影響の専門家(科学的には分かっていないと主張する側の方々)が頼りない。メディアが否定的な布陣をひいてイジメていることも一つのおおきな要因なのかも知れないが、このまま(始めだけ威勢が良く、直ぐに論破されて黙ってしまう、又は、話題をすり替えて説明する)では、いくら正しい主張をしていても、視聴者としては不安を覚えるんだけどなぁ。

中西準子さんの久々の論説

自然エネルギー、地に着いた議論がしたい―経済リスクも見落とせない
WEBRONZA 2011年6月27日
http://astand.asahi.com/magazine/wrscience/2011062500004.html

化石燃料原子力及び再生可能エネルギーについて、現在のリスクと将来のリスクを比較している。ここで述べられているのは結構画期的な考え方なんじゃないかと思っていて、それは、トップダウン思考(例えば、再生可能エネルギーに年間◯長円使うとすると・・・)に基づいて上記エネルギー政策を比較しようとしていること。指標は「リスク管理(ヒト健康・生態影響)」。「難しい」と言ってしまっては終わりだけど、とても難しい問題。
もう一点、そうつなげるかぁと思ったところは、「経済的なリスクの増大→失業者の増加→収入の減少→健康への影響(間接的環境リスク)」というロジックを使っているところ。(個人的な感覚として)これまで中西さんは、環境問題政策に往々にして費用がかかりすぎる点について、感情面からアプローチしてた感じ(お金って大切なんだよ、という感じ)だった。少し、変わったのかなぁ。

リスクの定義

頭士さんBlog
ヤバい統計学を読んでみた
2011/7/4
http://zushiy.blog133.fc2.com/blog-entry-73.html

頭士さんは、「100年に1度という非定常事象をどう評価していくか」というなげかけに対して、時間スケールを評価軸に加えていく必要があるとし、リスクの定義を次のように提案されている。

  • リスク=確率×時間×重篤

でも、確率に時間の概念が入っている訳だから、これって時間の単位が二つ掛け合わされた事にならない?

化学工業日報記事

改正化審法が本格施行「化学物質のリスク最小化へ」

化学工業が生み出す製品は各種の工業原料や最終製品として幅広く活用され、人類社会に不可欠な存在。一方、不適切な使用や管理によって人の健康や環境を損なう場合もあり、化学物質を適正に管理・使用し健康や環境へのリスクを最小化することが求められている。きょう4月1日に第2段階が施行され本格的に動き出す改正化学物質審査規制法(化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律)の狙いもここにある。わが国の化学物質管理体制は、すべての化学物質を対象とした包括的な管理制度へと大きく軸足を移す。

日本の化学物質の管理方法がどんどんと変わっていきます。昨年度は、リスクベースの管理に変更(スクリーニング段階の評価手法)。そして今年度は、全既存化学物質が対象になり、届出の対象に。これによって、行政に届け出られるデータの量や質が全く異なっていきます。
これにより、さらに、学術の分野にデータがフィードバックされ、新たな評価技術が生まれるという良いサイクルが回れば良いなと個人的には思ってます。

臭素系難燃剤・塩素系難燃剤への懸念宣言について

今年9月に米国サンアントニオで開催されたDioxin2010において、サンアントニオ宣言なるものが署名されたらしい。EHPの最新号で公開されている。
なんとも、150人近くの科学者が署名したというから、驚き。たしかに、この分野において、これほど多くの、そして、同じ意志の基に集まれるような国際会議はDioxin会議くらいか。

DiGangi J, Blum A, Bergman Å, de Wit CA, Lucas D, Mortimer D, et al. 2010. San Antonio Statement on Brominated and Chlorinated Flame Retardants. Environ Health Perspect 118:A516-A518.
本文
http://ehp03.niehs.nih.gov/article/info:doi/10.1289/ehp.1003089
論説
http://ehp03.niehs.nih.gov/article/info:doi/10.1289/ehp.1003088