POPRC5の結果

先週の10月12〜16日まで,日本の裏側スイス ジュネーブで新規POPsを決定するPOPRC5が開かれていた。HBCDはスクリーニング段階での議論が予定されていた。さて,その結果はいかに。
International Institute for Sustainable Development (IISD)が今回もPOPRCの会議のまとめ,そして,会議の様子の写真を公開した。18日に公開とのこと(ということは日本時間の19日くらいか)。

Briefing Note on the 5th Meeting of the POPRC
Published by the International Institute for Sustainable Development (IISD)
http://www.iisd.ca/chemical/pops/poprc5/brief/brief_POPRC5e.pdf

また,会議の様子(写真)は以下から見ることができる。
http://www.iisd.ca/chemical/pops/poprc5/
以下,IISDの報告書を基にしてまとめる。間違いあれば井上のところまで連絡いただけますでしょうか。

  • 10月13日(火)ノルウェー公衆衛生研究所(NIPH: Norwegian Institute of Public Health)のGeorg Becherは,HBCDの議論を始めるにあたり,HBCDをAnnex Aリストに入れるための提案書を再度紹介した。その際,HBCDの用途では発泡系断熱材が圧倒的であること,そして今後需要が増加するであろうことを説明した。(以下の1文章,少し分かりにくいが,たぶん次のような感じ)Becherは,残留性を明らかにするためにHBCDの環境中モニタリングが既に立ち上げられていることに言及しつつも,HBCDに高蓄積性があること,ヒトへの毒性を持つ可能性があること,長距離移動性を持つことを示す多くの研究結果を再度レビューし,HBCDはAnnex Dのスクリーニングクライテリアに該当すると結論付けた。
  • カナダ水産海洋省(Department of Fisheries and Oceans)のGregg Tomyは難分解性に関する情報提供を行った。Annex Dのガイドラインに従えば,HBCDは水中で難分解性であるものの,土壌中と底質中では難分解性ではないとした。しかし,彼は食物連鎖中の難分解性を考慮に入れる必要性を強調し,さらに,カモメの卵殻やアザラシ体内中の一水酸基HBCDの存在はHBCDとその代謝体の難分解性を示唆していることに言及した。
  • 日本は,HBCDが非常に高い蓄積性を有することを示すデータの提供を申し出た。
  • インドは,これまでに報告されたHBCDの分解性の研究結果がばらついていること,Tomyが用いたモデルの検証が不足していること,HBCDがヒト健康影響を持つという結論に懸念を示した。
  • そして11月14日(水),オーストラリアのIan RaeはHBCDに対する委員会結論案を皆の前で提案し,HBCDはAnnex Dの4つのクライテリア(難分解性・高蓄積性・毒性・長距離移動性)を満たしているとまとめた。次に委員会は,資料を見直しに入った。
  • 数ヶ国が,難分解性のデータにばらつきがあることに懸念を示し,さらなる解明を求めた。
  • Rae(オーストラリア代表)は,高蓄積性であればイコール難分解性であると述べた。
  • カナダは,食物連鎖中を見れば環境中で何が起こっているかを大体把握できると発言した。つまり,ある栄養段階から次の栄養段階に化学物質が移行するためには生体内に化学物質が存在するだけでなく,蓄積性を持っていなくては出来ない芸当であり,主観的ではあるが,そういう場合は大体難分解性の物質である。
  • 中国は,委員会の科学的実行性と透明性に懸念を示したが,いくらかの不確実性が存在するもののHBCDはAnnex Dのクライテリアは満たしていることに同意できると述べた。
  • インドは,難分解性とヒトへの影響を示す研究結果(の委員会での採用)に対し懸念を示し,データギャップを埋める必要があると発言した。
  • ヨルダンは,COP-4で決定された新たな9つのPOPsを附属書に追加するために生じる仕事量を考え,次のPOPs候補物質は性急にステップを進めない方が,負担が少ないために好ましいことを強調した。
  • シエラレオネは,Annex Dの段階を通過しさえすれば,最後のステップ(Annex A, B, Cリスト入り)まで進めなければならないという風潮が委員会中にあることに懸念を示した。
  • Arndt議長は,委員に対しプロポーザルへのコメントを求め,懸念を示していた委員に対しても現状で何か結論は出ているかを訪ねたときに,反対意見が出なかったことに言及した。そして,誰もプロポーザルに反対しなかったことから,委員会はスクリーニングクライテリアが満たされ,多少の修正を以てドラフトを採用することに同意した。
  • 以下3点がPOPRC5で決定されたことである。①スクリーニングクライテリアを満たしている。②プロポーザルの見直しとRisk profile案を作成するために特別検討委員会を設けること。③2010年1月8日までにAnnex Eに定められている情報を事務局に提出するために,関係者やオブザーバーを集めることが決められた。

個人的に印象的なのは以下の点。

  • カナダは,POPsのクライテリアに基づくと,HBCDの難分解性はグレーゾーンであるとした(水中では難分解性,土壌中・底質中では難分解性ではない)。しかし,高蓄積性を持つことは明らかであるため,イコール難分解性も併せ持っているであろうという論理(これまでの化学物質を見たらそうかもしれないのだが,それがHBCDにも当てはまるという根拠はどこにも存在しないだろう。ちなみに,オーストラリアも同様の論理を使って発言している)。
  • また,水酸化HBCDの注目度が今後高まることを示唆しているようだ。
  • 日本はHBCDの高蓄積性を示すデータを提供することを「申し出」た。
  • 難分解性の研究成果が大きくばらついている理由の究明が急がれる。
  • 中国は,委員会の科学的実行性(scientific practices)と透明性に懸念を示したが,いくらかの不確実性が存在するもののHBCDはAnnex Dのクライテリアは満たしていることに同意できると述べた。
  • ヨルダンは,次のPOPs候補物質は性急にステップを進めない方が,(各国の)負担が少なく好ましいことを強調した(確かに)。
  • シエラレオネは,Annex Dの段階を通過しさえすれば,最後のステップ(Annex A, B, Cリスト入り)まで進めなければならないという風潮が委員会中にあることに懸念を示した(もっともだなぁ)。
  • 次の節目は2010年1月8日。この日までに,Annex Eに定められている情報を事務局に提出するため,関係者やオブザーバーを集めることが決められた。

難分解性の問題が来年早々までにまとまるかどうか,疑問だが,今回のPOPRC5でHBCDのPOPs候補物質としての評価(いや,もはや解釈か?)がスタートした。
さて,POPs条約の目的とは何か?それは,有害な化学物質が人間・地球環境に与えるリスクを削減することであり,新規POPsとして大量に化学物質を指定することではないはずだ。本来の目的を常時確認しつつ,Scientificな議論を進めていただくことを希望する。