UNECE HBCDの管理方法を議論

5月18-20日にかけて,カナダのモントリオールでUNENEの残留性有機汚染物質に関するLCRTAPタスクフォースが開かれ,HBCDのマネジメントオプションが話し合われた。

ノルウェーKlif(SFTから最近編成された)からの提案文章

ノルウェーはHBCDのUNEP POPs提案国でもある。心からHBCD嫌いなんですね)

会議にあたっての発泡プラスチック業界団体からの意見書

(代替物質がない,経営へのインパクトが大きすぎ等々,泣きのコメント。痛みを伴う規制ですか。小泉さんみたいに,痛みを伴って結局やったことが有意義ではなかったといわれないように)

ちょっと今は読む時間がないのですが,こういった新たな動きが出てきている。UNEP POPsと共に,UNECE POPs方面の議論に注目したい。
読まなきゃ。

OECDの規制改革に関するレビュー

Risk and Regulatory Policy: Improving the Governance of Risk (OECD Reviews of Regulatory Reform)

Risk and Regulatory Policy: Improving the Governance of Risk (OECD Reviews of Regulatory Reform)

なんだかすごいぞ,コレ。

OECD新刊ニュースNo.43, P.9より>(一部変更)
 私たちは,政府が様々な危機から我々を保護してくれることを期待している。だた,すべての危機を取り除くことは不可能であり,また,必ずしもそうすることが市民にとって最高の利益とはいえない。
 リスクに基づいて規制を立案,実施することは,規制アプローチを効率的で効果的なものとし,また,様々な政策目標間のトレードオフ関係を明らかにするだろう。さらに,リスクに基づいて規制立案と遵守戦略を考えることにより,また,一層の保護とより効率的な政府サービスやコストの軽減を通して,市民の福祉向上が実現できる。しかし,規制を管理するための一貫したリスク管理政策に取り組んでいる政府は世界的にもほとんどない。OECD全体を見てもリスク政策を開発している政府はほとんどなく,リスク政策の運用を改善する余地は大きい。
 本書ではリスクと規制政策に関するOECDの最近の研究と分析を紹介している。各章では,今日の中心的な課題を論じている。また,一貫性のあるリスク管理政策を開発,あるいは改善するための方法を収録している。各章及び各章担当は以下。
1章 リスク管理のための規制政策枠組みを立案するための課題(written by Gregory Bounds)
2章 OECD諸国におけるリスク規制概念の様々な文化的,法的側面(written by Elizabeth Fisher)
3章 不確実な状況における意思決定のための分析モデルと原則(written by Giandomenico Majone)
4章 リスク規制と管理制度の主要素(written by Jonathan B. Wiener
5章 自主的な規制の活用によって,企業のリスク関連の行動を改善する(written by Cary Coglianese)
6章 OECD5カ国(オーストラリア,アイルランド,オランダ,ポルトガル,英国)と4部門(環境,食品安全,金融市場,医療安全)におけるリスクに基づく規制枠組み(written by Julia Black)
7章 リスクの優先順位付け,評価,管理,伝達のための公式ガイドラインの作成(written by D. John Graham

ん?
見た名前が…どこかの誰かたちが考えていたことと似たような文面が…
エグゼクティブサマリーのしょっぱなから,面白い言葉が色々と並んでいる。

Exective summary
There is a gap between the level of risk that is aspired to by policy makers and the level that is achievable through regulation. Not all risks can be reduced to zero and tradeoffs in risk reduction measures are inevitable. This publication aims to identify areas for the improvement of risk governance through an analysis of the legal, procedural and practical challenges for risk regulation. Each chapter provides advice on policy steps that governments can take to improve the efficiency and effectiveness of regulatory management arrangements for reducing risks.

OECDのホームページから,プロテクトされた文章がダウンロードできる。

ただし,Read onlyのようだ。プリントアウトしたい方は,こちらにPDFがアップロードされていた(事実関係はよくわからず)。アップロードサイトに落ちている。
一人で読むと厳しそうなので…勉強会開きたいです。どしどしレスポンスください。


P.S.業務連絡
MeDMARの方々,こんなことしてるくらいなら…と思われず,温かい目で見守っていただければ幸いです。

ドイツ バイオモニタリング始動

ドイツ連邦環境省とドイツ化学工業連合会が,ヒトのバイオモニタリングを始める。

2010/5/14
Environment Ministry and Chemical Industry Association: Start of cooperation in human biomonitoring
http://www.bmu.de/english/current_press_releases/pm/46017.php

新たな分析手法を導入し,今後10年間で50物質の測定を可能にするとのこと。その旗揚げとして,まずは以下の5物質の分析・モニタリングが開始される。
HBCDD,DINCH,DPHP,2,2',6,6'-Tetra-tert-butyl-4,4'-methylendiphenol,Dodecylphenol

デンマーク環境保護庁 RoHS改正に関するインパクト分析

先日の欧州議会Policy Departmentのインパクト分析に加えて,Danish EPAも評価書を出していた。たぶんこの4月中に出ていたのだと思う。

Jakob Maag, Ulla Kristine Brandt, Sonja Hagen Mikkelsen and Carsten Lassen
Inclusion of HBCDD, DEHP, BBP, DBP and additive use of TBBPA in annex IV of the Commission’s recast proposal of the RoHS Directive
Danish Environmental Protection Agency, Environmental Project, No.1317 (2010)
http://www2.mst.dk/udgiv/publications/2010/978-87-92617-52-1/pdf/978-87-92617-53-8.pdf

内容としては欧州議会Policy Departmentの出したものとほとんど同じ。結論として,データが無いために良く分からない,という感じ。


HBCDに関しては以下の様なまとめ。
■HBCDの問題点は発達神経毒性と同様に難分解性と環境中で発現する毒性である(CMR性は有していない)。ヒト毒性でいえば,最も憂慮すべきは新生児の暴露により発現する発達神経毒性であり,EUリスクアセスメントレポートはさらなる情報の集積が必要と結論づけている。
■代替物質は既に存在していることは明らかである。しかし,既往文献・報告書を調査する限り,頑健な結論を導くために必要な代替物質のデータが少ない。
■コスト

  • →他臭素系難燃剤へ代替 :100〜1000万ユーロ/年
  • →他のポリマー+非ハロゲン系難燃剤 :500〜2500万ユーロ/年

EU圏中の総増加コストである。現実的なコストはRoHS指令が対象製品の適用かどうかによる。
コンプライアンス管理のためのコストが余分にかかる。化学物質分析のためのコストと標準品を揃えるコストがその殆どを占めている。
■ベネフィット:代替物質はPBT性状を持っていないし,HBCDよりも環境親和性があると結論づけている既往文献は多い。
■統合的な評価を行うためには,「小さな環境影響」と「不確実性を有するヒト健康影響」間のトレードオフを考慮する必要がある。(たぶん,HBCDの代替物質が有する特性は,トレードオフの関係にあるということを言いたいのだと思う。)


これ以外に,DEHP, BBP, DBP,TBBPAの評価も行っている。

RoHS法改正にあたって規制影響分析結果が公表される

欧州議会のPolicy Department(環境,公衆衛生,食品安全委員会)は改正RoHS法案が及ぼすインパクトの定量化を検討してきており,その結果レポートが先日公表された。

Policy Department A : Economic and Scientific Policy, Environment, Public Health and Food Safety(2010)Impact Assessment of certain European Parliament amendments on the Commission Recasting Proposal on RoHS (Restriction on the use of certain hazardous substances in electrical and electronic equipment)
http://www.europarl.europa.eu/activities/committees/studies/download.do?language=en&file=30531
IP/A/ENVI/ST/2009-13, April 2010

本レポートの分析対象はDEHP,BBP,DBP(フタル酸エステル系),ポリ塩化ビニル(PVC),そして臭素系難燃剤(その中でも特にTBBPAに焦点を絞っている)の大きく分けて3種物質群である。
結論を簡潔に記述すれば,フタル酸エステル系に関しては禁止措置の妥当性が見いだせなかったようだ。それに対し,PVCと臭素系難燃剤はデータ不足の関係から,現状では結論を出すことはできない,という結果になった。もちろん,後者に関しては「リスクの議論ができなかった」のではなく「禁止措置によるコストがあまりにも大き」く,「ベネフィット評価ができない」ことが関連してきているようだ。特にPVCは材料の安価度(コスト的ベネフィット)が規制のベネフィットを大きく上回ることが示唆されている。統一化指標でコストベネフィットは行ってはいないが。
本文中には以下のような言葉が追記されている。
「必要なデータの不足により,難燃剤を規制することにより得られるヒト健康影響及び環境に対するベネフィット定量化は不可能であった。本報告書では結局,科学者の研究や公表されているレポートに基づいた結論がまとめられている。全てのケーススタディにおいて,ベネフィットの大きさを評価することはできなかった。」
以下,臭素系難燃剤の解析部分に焦点を絞って結果を抜き出し&考察する。
臭素系難燃剤(TBBPA)に対する規制は,ヒト健康影響低減に「大きく寄与」するが,生態リスクに関しては「不明瞭(ambiguous)」としている。なぜならば,TBBPAの代替物質もTBBPAと同様に生態リスクが懸念されるものばかりだからとのこと。
ハロゲンフリー難燃剤は今後,価格を抑えることができるが,それ以上に,難燃剤の仕様に合わせた「樹脂」を利用することになると,その「樹脂」の価格が非常に大きく効いてくる(これは(井上ら 2009)で言及していたことと同じ→日本リスク研究学会誌Vol.19, No.4)。
結局,臭素系難燃剤とPVCの規制影響分析に関してはより詳細な検討を加えなければならないと欧州議会の委員会に答申を出す(出した?)とのこと。

これらの結論に対し環境NGOのChemSecは,臭素系難燃剤とPVCから生成するダイオキシン類の環境リスクの分析をスキームに入れるべきと主張している。
http://www.chemsec.org/news/527-european-parliament-impact-assessment-on-halogen-free-flame-retardants-and-pvc-free-products-in-electronics

分析の内容は,上述のように,定量評価が出来ていない(フタル酸エステル類に関しては既存文献からDALYの原単位を引っ張ってきて,暴露量と掛け合わせることにより,総減少DALYを算出=ベネフィット)。
臭素系難燃剤でヒト健康影響のエンドポイントとして選ばれているのは以下の3点

  • 内分泌かく乱
  • 生殖発生毒性
  • 肝機能の低下


デンマークのOSHAのような機関(BAuA)が2001年に出したレポートではHBCDにはヒト健康影響がないとしている文章を引用している。初見。でも2001年だから大分古い文献のレビューにより作成された模様。
http://www.baua.de/nn_17206/de/Themen-von-A-Z/Gefahrstoffe/TRGS/pdf/905/905-1-2-5-6-9-10-hexabromocylodecan.pdf


本報告書では,TBBPA及びHBCDからの代替物質にはホウ酸亜鉛を挙げているようだ。しかし,ホウ酸亜鉛には急性毒性があるため,「すぐに代替」とは言えないとのこと。


びっくりしたのは,Table5。これは年間の臭素系難燃剤の消費量とストック量を示した(引用した)ものだが,インクジェットプリンターにHBCDがすごい量ストックされている。日本の年間需要量が丸々ストックされているようだ。表題には単位が書いていないが,年間フローの推定のようだ。つまり,/年が量の単位にくっついている。

なんと,難燃剤の単価が掲載されているではないか。元文献は単に,企業さんのインターネットで検索しただけ。これは使える可能性あり。
The Plastic Web:http://www.ides.com/resinpricing/
abcr:http://212.202.102.92/abcrestore/(S(bqgh4k45gtav0c551beahfya))/Default.aspx

HBCDとTBBPAに関しては,代替難燃剤の単位価格の方が安いため,マイナスのコストが計上されている。そんなことがあるのか?…という感じはしないでもない。
その結果がTable 8にまとめられている。


なんだか結論が見えてこない。
しかし,その中でも確実に言えることは,フタル酸エステル類はRoHS法によって規制される根拠が薄くなった。
では,臭素系難燃剤に対してはどうか?
本レポートの中でも述べられている通り,現状では詳細評価に必要なデータが限られている,そして,どの毒性影響をエンドポイントとして採用していいのか,まだまだ議論は始まったばかりである。
RoHS法の生い立ち上,予防原則に則った対応をしようとしているのかもしれないが,そして,投票期日は迫っているのかもしれないが,冷静になって再検討をお願いしたい。

ちなみに,改正RoHS法案の承認投票は6月3日から7月6日に延長されたみたいですね。

署名のお願い:ヨーロッパの立法者に対し,電子機器から有害な化学物質を除去することを求める

Sign on - Call for European legislators to eliminate toxic chemicals from electronics
http://cleanproduction.org/Electronics.GreeningConsumer.php

上の資料のSupportiong Infromationは以下。
http://www.cleanproduction.org/pdf/RoHS_BrCl_elimination_april2010.pdf
これらの文章は以下の資料が大きなSupportになっている。

New Report on the Greening of Electronic Products
- Apple, Sony Ericsson and Major Suppliers are Leading the Industry in Removing Chlorine and Bromine Based Substances from Electronic Products -
http://cleanproduction.org/library/GreeningConsumerElectronics.pdf

果たして,アップルが,ソニーが,臭素系難燃剤を使っていないから,彼らは「正しい」,そして臭素系難燃剤は「アブナイ」化学物質なのか。
「科学的証拠に基づくと臭素系難燃剤は代替すべき物質群である」と本文では述べているが,これらの代替行動を以ってデファクトスタンダードを起こそうとしているようにしか思えない。
全ての事業者が足並みを揃えて臭素系難燃剤を代替する必要が果たしてあるのだろうか。代替を行う事業者は,それを武器にして消費者に対しアピールする戦略を取り,利潤を求めれば良いと思うのである。そのためにいくらコストがかかろうとも