BSE問題と難燃剤

ここ最近,中西準子さんの雑感をはじめとして食品安全委員会委員の人事案の件が非常に大きな反響を呼んでいる。僕は何の気なしにこれらの流れを追うだけになっているのだが,薄々つっかえてきていたことが最近ようやく見えてきた。
それは,BSEの輸入再開問題とHBCDをはじめとした難燃剤の禁止問題は非常に似通った側面を持っているということだった。まずは中西準子さんの今週の雑感を引用させていただく。

筒井さん*1は、こう書いている「リスク評価のためのデータが少なければ少ないなりに、その少なさを考慮してリスク評価を行い、また、データが少ないためにリスク推定値が大きくなるのであれば、更なるデータを収集し、少しでも確実な結論を得る努力をする必要があったのである」と。

ただ、筒井さんの談話の後半の部分、つまり「また、データが少ないためにリスク推定値が大きくなるのであれば、更なるデータを収集し、少しでも確実な結論を得る努力をする必要があったのである」のくだりも、実は私の文章からとられたものだが、ここは、やや注意を要する(私も書き方に注意しろの意味)。

うっかりすると、プリオン調査会の辞めた委員達が言い続けたことと同じになる。不確かだから、もっと調べなければリスク評価はできない、したがって、米国産牛肉の輸入を再開してはいけないという主張と同じになりがちである。 

データがないとき、データを集めるべきだという意見のどこが悪いかと疑問を持つ方がいるだろう。問題は、そのデータを集めている間にも、何らかの行為は行われているということである、つまり、この場合は、輸入禁止が続いてしまうこと。それは、米国産牛肉は、リスクが高いと評価したことと同じ結果を生んでいることである。だから、そもそも米国産牛肉の輸入に反対する人は、データがないから評価ができないと言い続けるのである。

リスクの値が、低いか高いかで議論するのはしんどいので、そこに議論をひっぱるのである。プリオン調査会で、専門委員によって主張された多くの意見が、これであり、戦術だった。マスコミや評論家の意見も同じ。その意見が、輸入禁止継続という結果をもたらすことを知った上での議論なのである。

では、データが少ない時、どうするか?それこそ、少ないときは少ないなりに・・結論を出す、そして、期限を決めて、さらなるデータを収集し、見直す、これしかないのである。

この文章で表現している,米国産牛肉反対派の論理は以下のようになる。

  • ①データが少ないために,BSEのリスクの推定値には大きな不確実性を伴う。
  • ②そのため,より調査をしてデータを集めなければ真のリスク評価はできない。リスク評価によって出される結論(リスク管理)は間違っているかもしれない。
  • ③輸入再開は不完全なリスク評価を基にして行われたので,科学的な管理決定ではない。(=つまり,予防原則適用,輸入禁止を継続すべきである)

さて,HBCDを始め難燃剤はどうかと言うと,

  • ①データが少ないために(HBCD:コンジェナーによって大きく物性が異なるため本当にPBTを満たしているのかと言った議論や長距離移動性はあるのかといった議論,DecaBDE:低臭素化PBDEほど毒性が高く最近POPsにも指定されたため低臭素化するのかという議論),難燃剤のリスクの推定値には大きな不確実性を伴う。
  • ②そのために,データを集めなければ真のリスクを評価できない。
  • ③良く分からないことには予防的に対応することが望ましいとされているため,禁止措置を考える。

また,中西さんは文章の最後で以下のようにつづっている。

米国産牛肉の輸入再開は、我が国の国民の健康に大きなマイナスの影響を与えたと考えているのか、また、経済的な負担を強いることになったと考えているのか、そこが聞きたい。

僕も同じことを聞きたい。難燃剤の話に落とし込めば,難燃剤を規制することによって,どれだけの国民の健康影響を回復できたのか,経済的なベネフィットはどれだけ得たのかについて,ちゃんと評価できているのか,そしてちゃんと議論されているのかどうかについて聞きたい。
それで納得できる議論が行われているのであれば,誰も文句は言えないだろう。

*1:民主党『次の内閣』ネクス農林水産大臣。次のHPにて談話を表明している。URL:http://www.dpj.or.jp/news/?num=16424