米国ワシントン州でDecaBDEの製造・使用・流通が禁止決定

2008年12月29日,ワシントン州の Department of Ecology and Health が出したレポートを見つけた。

Washington State Departments of Ecology and Health (2008) Alternatives to Deca-BDE in Televisions and Computers and Residential Upholstered Furniture. 29 December 2008.
http://www.ecy.wa.gov/pubs/0907041.pdf

ワシントン州といえば,2006年にDecaBDEの規制影響分析を定量的に示した非常に興味深い州だった。

Washington State Departments of Ecology and Health (2006) Washington State Polybrominated Diphenyl Ether (PBDE) Chemical Action Plan: Final Plan. 19 January 2006.
http://www.ecy.wa.gov/pubs/0507048.pdf

ワシントン州にはRCW 70.76という法律があり,この法によってワシントン州のPBDEsが規制されている。これまで,DecaBDE以外は適用除外であった。
2006年以降毎年,Washington State Departments of Ecology and Health(以後DOH)はRCW 70.76に従い,DecaBDEのリスク評価,科学的知見,その他代替物質に関する情報を見直す作業を毎年行い,報告書を作成してきた。
そしてついに2008年暮れ,DecaBDEは布張り家具,テレビ,パソコンから安全な代替を行うことが出来ると判断され,その判断の2年後,つまり2011年1月1日より,ワシントン州では他のPBDEaと同様の扱いを受ける。つまり,完全禁止である。
TV筺体の代替できる物質は以下のような結論になったようだ。

  • リン系難燃剤 RDP (resorcinol bis (diphenyl phosphate))が安全で,技術的にも代替実現可能な難燃剤である。RDPは易分解性,中程度の蓄積可能性,中程度の毒性であるため,より「安全な」代替物質である。
  • RDPはDecaBDEとは異なるプラスチック樹脂を用いれば(恐らくHIPSではなく,PC/ABSやPPOなどの樹脂を指していると思われる)難燃性を保ったまま代替できる。このプラスチック樹脂は“実現可能であり,コスト効果は良い”と考えられるので大丈夫。(ここでは,イリノイ州の代替物質評価(Illinois 2007)だけを引用して鵜呑みにしている。検討をしなくてもいいのだろうか?ちなみに,井上ら(2008)ではプラスチック樹脂+難燃剤のコスト差が,代替の負荷コストに大きく効いていると試算している)
  • その他にも代替候補の難燃剤が考えられていた。リン系難燃剤のBAPPとTPPである。BAPPは分解するとビスフェノールAを生成する可能性があるため,代替物質として適当でないと判断された。TPPは水生生物へ強い毒性を持つことから,代替物質として適当でないと判断された。

現在,臭素系難燃剤から良かれと思われて代替されたリン系難燃剤の汚染が問題になっている。ヒト健康リスク同士のトレードオフである。さて,今回のワシントン州の決定は全体のリスクを下げる方向に向かったのか,向かっていないのか。