最近のDecaBDE代替事情

米国ワシントン州は非常に熱のこもったレポートを作る。PBDEのレポートは特にすごい(PBDEの評価レポートに限ったことではないと思うが)。そしてワシントン州のPBDE,特にDecaBDEの評価についてはある程度終止符が打たれたと言っても過言ではないだろう。先日このブログでも取り上げた,「2011年1月にワシントン州でDecaBDEを完全禁止にする」ことが決定される根拠となった報告書が出たためである。
その他の州でもDecaBDEの代替に関するレポートが出ている。イリノイ州メーン州がそうだが,ちょうど1年前にHawaii州も出していたようだ。

State of Hawaii (2008) REPORT TO TWENTY-FIFTH LEGISLATURE STATE OF HAWAII 2009 (20 November 2008)
http://gen.doh.hawaii.gov/sites/LegRpt/20091/DECA%20Leg%20Report%20Nov%2020%202008%20FINAL.pdf

本報告書では,報告書作成時までの各国政府機関や米国の他州のレポートを参考にして,ハワイ州のDecaBDE使用企業にも代替を促す内容をまとめたもの。こんな風にして代替が推奨されていたとは知らなかった。


さて,今度は行政から環境団体に目を向けてみる。DecaBDEからの代替が多くの機関で評価され,選択されるべき代替物質の方向性が大体固まってきたこともあり(ほとんどの場合,RDPが代替物質として取り上げられるのだが),非常に声高らかな感じである。

Toxic-Free Legacy Coalition (2007) State of Maine Finds Safer Effective Alternatives to Deca (January 2007)
http://www.watoxics.org/files/me-alt-summary

上の資料はメーン州が出したDecaBDEの代替物質評価をある環境団体がまとめたものである。

Toxic-Free Legacy Coalition (2007) Smoking Out the Truth About Deca and Fire Safety (January 2007)
http://www.watoxics.org/files/decafiresafety

上の資料はDecaBDEの禁止措置が取られたとしても,市民の生活にまったく支障はなく,むしろ好ましいということを以下5点を理由にして説明している。
(1) マットレス製造者は米国の防火規格をクリアするためにDecaBDEを用いる必要はないため(代替物質及び代替技術が開発されているため)
(2) 同様に,CPSC規格をクリアするためにDecaBDEを用いる必要はないため
(3) 電子電気機器製造メーカーもDecaBDE以外の代替物質が存在する
(4) 防火規格の専門委員会が決定を下さない限り,DecaBDEの禁止措置実施はできない。これが難燃性能を落とさないようにするセーフガードの役目を担っており,安全に禁止措置を行えるため
(5) 消防士たちが被るDecaBDEの副生成物からのリスクを低減できるため


また,2009年3月31日時点でDecaBDEを使っていない企業が一覧表で公表されている。

Leading Companies Not Using Deca-BDE!
http://www.mnceh.org/DECA_Companies_without_deca_Factsheet_2009-3-31.pdf

こういった公表の仕方は「DecaBDEを使っている企業はあまり気配りが出来ていない」という様な風潮を与える気がしてならないし,それを狙ってのことだろう。


以上の様な動きに対し,臭素系難燃剤の業界団体や消防の団体が Fact Sheet という形でコメントを出している。例えば以下に2つのレターを取り上げる。Deca反対派の主張に上手くこたえている。

BSEF (2007) The Facts on "Safer" Alternatives to Deca-BDE (March 2007)
http://www.periclase.com/Brome/files.nsf/Lookup/Alternatives_in_TVs/$file/Alternatives_in_TVs.pdf

CFFSI (2009) Flame Retardant DecaBDE: Claims vs. Facts (3 October 2009)
http://www.cffsi.org/pdfs/Master_Claim.pdf

● Claim:DecaBDEの代替物質は現に存在する。
  ⇔ Fact:?DecaBDEほど製造からリサイクルにわたるまで評価されている難燃剤は存在しない。?DecaBDEと比べてRDPの方がSaferだという論理は比較論でしかなく,安全情報が少ない化学物質への代替を推奨していることになる。
● Claim:パソコン用途のDecaBDEは代替されつつある。
  ⇔ Fact:そもそもパソコン用途のDecaBDEは非常に限られており,大半のパソコンメーカーは初期の段階からDecaBDEを使わないことを表明している。
● Claim:先進的なTVメーカーはDecaBDEを使用していない,もしくは2010年までに代替完了する予定である。
  ⇔ Fact:テレビメーカーが他難燃剤に代替しているのは市場からの圧力があるからで,環境リスクが懸念されたからではない。ちなみに,代替が完了できているのは,製品価格の高いタイプのものであり,製品価格が安い製品の場合は?コストを相殺できない(製品価格に上乗せするか自身のもうけを減らすか)。また,米国における難燃剤のTV筺体への添加は自主的な行動であり,国や州として防火規格が設けられているわけではない。そのため,扱いやすくコストパフォーマンスの良いDecaBDEを多用しているメーカーが,コストパフォーマンスの悪い難燃剤に代替せざるを得なくなった場合,むしろ難燃剤を入れずに製品の難燃性を下げ,火災による負傷者や死者を増加させる可能性もないわけではない。最近,National Association of State Fire Marshals(NASFM,全国消防保安官協会)が8台のフラットパネルTVをキャンドルの火に曝す実験を試みたところ,製品によってその着火時間に大きな差が出ており,メーカーによって難燃性能が変動している。
● Claim:TVメーカーがDecaBDEを代替することに関して,大きな障壁はない。
  ⇔ Fact:DecaBDEから簡単に代替できる難燃剤は存在しない。大なり小なり影響を受ける。難燃剤を代替する場合,大体の場合は樹脂の変更や添加量の増量,製品のデザインや工作機器設備の変更まで影響が及ぶ。これらを考慮すると,DecaBDEの使用禁止による代替によって,1メーカーだけで100万ドル〜2,500万ドルのコストを被ると試算されている(もちろん,代替にかかる機関によってこの値は異なる)。