畝山智香子さん講演会

益永茂樹先生の大学院講義「リスク社会論」では毎年,外部講師を呼んで講義をしてもらうことが恒例になっている。今年は(どうやら僕のお願いが叶ったようで)畝山智香子さんに来ていただけることになった。以前から食品安全ブログのヘビーファンだったし,書籍もいくつかもっていて,講演会があるとなると飛んで行っていたりしたので,結構行き過ぎなファンの一人だったのだが,今日直接お会いしてお話して,知り合いになったのが恐れ多いかなぁと思っていたりする。
さて,講演内容は,というと,実はこの11月末に化学同人から出版された「ほんとうの『食の安全』を考える―リスクという幻想―」の抜粋のような感じだったhttp://d.hatena.ne.jp/uneyama/20091129。もちろん,説明されるのと本を読むのとでは理解度が異なるので,講演会に出ることで得られたものは非常に多い。
以下,簡単にメモをつづる(自分で気付いたところばかりなので,メモを読んだだけではエッセンスは伝わらないと思いますが)。

  • 発がん性試験ではラットを大体200〜300匹,約2年間にわたって試験する。
  • GLP基準は大学では取得できない。なぜならお金がかかりすぎるから。
  • 食の安全を語るためには,食品添加物残留農薬をカテゴリー①,食品中汚染化学物質をカテゴリー②,食品そのものをカテゴリー③の3つに分割する。
  • 欧州のカドミのTWI,そしてEPAの魚のメチル水銀は政治的に不確実性係数が決定された非常に稀有な例。EPAは魚釣りで釣れた魚のみを対象とした規制となっている。
  • トマトのベータカロテン,サリチル酸メチルの含有量は栽培年や品種によってかなりバラつく(何倍から何十倍のレベルまで)。

ゼロリスク探求症候群の方々が癇癪を起された場合にはどう対処すればよいですか?と畝山先生に伺ったところ,「データを示して発表しているので,かみつかれた経験はない」とおっしゃられていました。感受性の高い『ゼロリスク探求症候群』の方々は,こちらが分かりやすい説明をすればするほど癇癪を起こされると思っていたのですが,「データを見せてデータで議論すること」がやはり重要なんだなと再認識。
最後にもう一点。食品のゼロリスク探求症候群と,製品中有害化学物質分野でのハロゲンフリー探求症候群は同じだな,と思っていた。畝山さんに「当たり前のことを当たり前に主張することが重要で,情報発信することで変えていくしかないと思うのは我々の分野と同じだと思うのですが,その他+αはあるか?(むしろ,それしか我々にはできないのか?)」と意地悪めな質問をしてみたのだが,畝山さんも+αを特定するには至っていないとのこと。僕も至っていない。
この厳然たる,当たり前のようになってしまった社会の流れはどうすれば変えられるのか。当たり前の議論を当たり前に話すことがなぜできないのか。食品のリスク分野とハロゲンフリーはタイアップできないものかと考えている最中。