難燃剤研究では大家 武田邦彦さんの新著

武田邦彦さんの新著が出ていた。大学生協でたまたま見つけて手に取る。まだ購入してはいないが,1,000円というリーゾナブルさが購入にあたっての僕の敷居を低くしている。

科学者が読み解く環境問題 (CMC books)

科学者が読み解く環境問題 (CMC books)

最近は地球温暖化懐疑論者の代表格となっていたり,バラエティーに出演してみたりと,TV業界とは非常に良いお付き合いをされているようだ。実は武田さんは難燃剤業界では非常に名前の通った方で,僕も著書を持っていたりする。HPの方も難燃の理論について結構分かりやすくまとめられているので,よく参考にさせてもらっている。
http://takedanet.com/2007/04/2005__9d17.html
さて,今回は武田さんの新著の文章を読んでいて,ちょっとツッコミたくなったので雑感で取り上げる。文章の引用中にツッコミを入れていくのでご容赦を。

火災と環境ということを科学的に考慮すると,現在の社会の一般的な認識と全く違う結論になる。すなわち,

  • 火災による犠牲者は,日本だけ,一年で2,000人を超え,これまでの環境破壊の中では交通事故に次ぐ,大きな被害である。(井上:交通事故は環境破壊ではないですね。)
  • ハロゲン系難燃剤もしくはポリ塩化ビニルそのものを積極的に使用すれば火災の多くを防ぐことができる。(井上:ハロゲン系難燃剤を使おうと使わまいと,(製品に起因した)火災の多くはだいたい防がれている。といのは,難燃規格は一定だから,です。この文書を訂正するとすれば,最後のところを『火災の多くを“もっと安価・簡単に”防ぐことができる』となります。)
  • ハロゲン系難燃剤は,臭素の置換体であり,環境中で速やかに分解されて臭素イオンになるので,環境への影響はほとんどない。(井上:すべてのハロゲン系難燃剤という定義であれば間違いでしょう。PBB,PBDEのようにその物性が安定すぎて+毒性ありでPOPsになった物質もあります。また,“難燃”という性能を付与するためには,通常の物質が持たないような物性(難分解性とか)を持つことは,「期待されている効果」上,仕方のないことではないでしょうか。)
  • 火災による犠牲と,臭素系難燃剤による環境破壊を「通常の学際的手法」で比較すると,火災による犠牲の方がはるかに大きい。(井上:臭素系難燃剤が環境破壊を引き起こしていると言えば,そんなことないのでは?環境汚染→環境破壊という順番があると定義すれば,今はまだ環境汚染とかいう段階ではないだろうか。しかも軽度の。環境破壊というと,ものすごく振りきれた感じをにおわせて科学的な言葉じゃないような…)

ということになる。

ということで,「まあAgree」という感じなら1番目と4番目くらいか。
実はこの文章の次にガックリくる部分が待っていた。

日本社会が「予防原則」の意味をよく理解し,冷静で科学的な議論が可能であれば,臭素系難燃剤を積極的に使用することができるので,火災で悲惨な目にあう幼児や老人はずいぶん減少すると考えられる。
…(中略)…
このような状態が放置されている原因は,「火災による犠牲者とハロゲン化合物による環境破壊」というテーマに取り組む研究者がいないことも挙げられる。「ハロゲンを含まない新しい難燃材料」を研究すれば,「環境に資する研究」ということで研究費をとりやすく,研究成果は論文になり,名誉も得られる。ところが,科学的にハロゲン化合物の毒性や火災による犠牲者を比較売る研究などをすると,環境運動化や利害関係のある方面から集中的に攻撃を受け,到底若い人がテーマにする様な状態にはない。


ガクっ…


僕,まさに今研究してますけど,何か?