OECDの難分解性・長距離移動性評価ツール

以前にも紹介したことがあるけれど,OECDが公開しているツール OECD Pov & LRTP Screening Toolを最近触っている。このツールのすごいところは,利用対象者が化学物質製造者,各国政府機関であると位置づけているところにあるんじゃないかと思う。そして,あまたあるモデルの中で,利用者がどのモデルでPOPs様を評価していいか分からなくならないように,OECDが意図的に「難分解性・長距離移動性評価ツール」の競合を避けさせている。そして勝ち残ったツールが本EXCELシートで作られた簡易モデルである。
どういったツールが競合になっていたか…それは以下の論文の著者を見ていただくと分かる。

Fenner K, Scheringer M, Macleod M, Matthies M, McKone T, Stroebe M, Beyer A, Bonnell M, Le Gall AC, Klasmeier J, Mackay D, Van De Meent D, Pennington D, Scharenberg B, Suzuki N, Wania F.
Comparing estimates of persistence and long-range transport potential among multimedia models.
Environ Sci Technol. 2005 Apr 1;39(7):1932-42

かの,フガシティーモデル発案者のマッケーさんをはじめ,そうそうたるメンバー。
Penningtonさんといえば,ED10とDALYを使ってヒト健康影響評価を評価した代表的な人だし。

ツールの内容についてだけれど,これが非常に簡単で,スクリーニングツール(といっても精度はそれなりにある)なので,5つのパラメータを入れれば評価できる。

分子量,オクタノール/水分配係数系の係数(空気水分配係数Kaw,オクタノール/空気分配係数Koa,オクタノール/水分配係数Kowのどれか二つが分かれば大丈夫です),大気中半減期,水中半減期,土壌中(底質ではありません)半減期

パラメータに幅がある場合は,その幅さえわかれば(ちなみにデフォルトである程度の幅を設定してもらうことができる),モンテカルロシミュレーションを回すことができて,不確実性を含んだ結果を意思決定につなげることができる。色で難分解性・長距離移動性のランクを示してくれるところも,使用者に向けての配慮。
POPs物質にHBCDが登録されるとしたら,ここの議論は絶対に外せない。さらっと評価してみたところ,難分解性はそこまで気にすることはないというスクリーニング結果になった。問題は長距離移動性(大気移動・沈着)のようだ(レベル的には中)。