RoHS法改正にあたって規制影響分析結果が公表される

欧州議会のPolicy Department(環境,公衆衛生,食品安全委員会)は改正RoHS法案が及ぼすインパクトの定量化を検討してきており,その結果レポートが先日公表された。

Policy Department A : Economic and Scientific Policy, Environment, Public Health and Food Safety(2010)Impact Assessment of certain European Parliament amendments on the Commission Recasting Proposal on RoHS (Restriction on the use of certain hazardous substances in electrical and electronic equipment)
http://www.europarl.europa.eu/activities/committees/studies/download.do?language=en&file=30531
IP/A/ENVI/ST/2009-13, April 2010

本レポートの分析対象はDEHP,BBP,DBP(フタル酸エステル系),ポリ塩化ビニル(PVC),そして臭素系難燃剤(その中でも特にTBBPAに焦点を絞っている)の大きく分けて3種物質群である。
結論を簡潔に記述すれば,フタル酸エステル系に関しては禁止措置の妥当性が見いだせなかったようだ。それに対し,PVCと臭素系難燃剤はデータ不足の関係から,現状では結論を出すことはできない,という結果になった。もちろん,後者に関しては「リスクの議論ができなかった」のではなく「禁止措置によるコストがあまりにも大き」く,「ベネフィット評価ができない」ことが関連してきているようだ。特にPVCは材料の安価度(コスト的ベネフィット)が規制のベネフィットを大きく上回ることが示唆されている。統一化指標でコストベネフィットは行ってはいないが。
本文中には以下のような言葉が追記されている。
「必要なデータの不足により,難燃剤を規制することにより得られるヒト健康影響及び環境に対するベネフィット定量化は不可能であった。本報告書では結局,科学者の研究や公表されているレポートに基づいた結論がまとめられている。全てのケーススタディにおいて,ベネフィットの大きさを評価することはできなかった。」
以下,臭素系難燃剤の解析部分に焦点を絞って結果を抜き出し&考察する。
臭素系難燃剤(TBBPA)に対する規制は,ヒト健康影響低減に「大きく寄与」するが,生態リスクに関しては「不明瞭(ambiguous)」としている。なぜならば,TBBPAの代替物質もTBBPAと同様に生態リスクが懸念されるものばかりだからとのこと。
ハロゲンフリー難燃剤は今後,価格を抑えることができるが,それ以上に,難燃剤の仕様に合わせた「樹脂」を利用することになると,その「樹脂」の価格が非常に大きく効いてくる(これは(井上ら 2009)で言及していたことと同じ→日本リスク研究学会誌Vol.19, No.4)。
結局,臭素系難燃剤とPVCの規制影響分析に関してはより詳細な検討を加えなければならないと欧州議会の委員会に答申を出す(出した?)とのこと。

これらの結論に対し環境NGOのChemSecは,臭素系難燃剤とPVCから生成するダイオキシン類の環境リスクの分析をスキームに入れるべきと主張している。
http://www.chemsec.org/news/527-european-parliament-impact-assessment-on-halogen-free-flame-retardants-and-pvc-free-products-in-electronics

分析の内容は,上述のように,定量評価が出来ていない(フタル酸エステル類に関しては既存文献からDALYの原単位を引っ張ってきて,暴露量と掛け合わせることにより,総減少DALYを算出=ベネフィット)。
臭素系難燃剤でヒト健康影響のエンドポイントとして選ばれているのは以下の3点

  • 内分泌かく乱
  • 生殖発生毒性
  • 肝機能の低下


デンマークのOSHAのような機関(BAuA)が2001年に出したレポートではHBCDにはヒト健康影響がないとしている文章を引用している。初見。でも2001年だから大分古い文献のレビューにより作成された模様。
http://www.baua.de/nn_17206/de/Themen-von-A-Z/Gefahrstoffe/TRGS/pdf/905/905-1-2-5-6-9-10-hexabromocylodecan.pdf


本報告書では,TBBPA及びHBCDからの代替物質にはホウ酸亜鉛を挙げているようだ。しかし,ホウ酸亜鉛には急性毒性があるため,「すぐに代替」とは言えないとのこと。


びっくりしたのは,Table5。これは年間の臭素系難燃剤の消費量とストック量を示した(引用した)ものだが,インクジェットプリンターにHBCDがすごい量ストックされている。日本の年間需要量が丸々ストックされているようだ。表題には単位が書いていないが,年間フローの推定のようだ。つまり,/年が量の単位にくっついている。

なんと,難燃剤の単価が掲載されているではないか。元文献は単に,企業さんのインターネットで検索しただけ。これは使える可能性あり。
The Plastic Web:http://www.ides.com/resinpricing/
abcr:http://212.202.102.92/abcrestore/(S(bqgh4k45gtav0c551beahfya))/Default.aspx

HBCDとTBBPAに関しては,代替難燃剤の単位価格の方が安いため,マイナスのコストが計上されている。そんなことがあるのか?…という感じはしないでもない。
その結果がTable 8にまとめられている。


なんだか結論が見えてこない。
しかし,その中でも確実に言えることは,フタル酸エステル類はRoHS法によって規制される根拠が薄くなった。
では,臭素系難燃剤に対してはどうか?
本レポートの中でも述べられている通り,現状では詳細評価に必要なデータが限られている,そして,どの毒性影響をエンドポイントとして採用していいのか,まだまだ議論は始まったばかりである。
RoHS法の生い立ち上,予防原則に則った対応をしようとしているのかもしれないが,そして,投票期日は迫っているのかもしれないが,冷静になって再検討をお願いしたい。

ちなみに,改正RoHS法案の承認投票は6月3日から7月6日に延長されたみたいですね。