講演会報告 食品に関わる化学物質の安全性とは?②(畝山さん残り+永山さん)

畝山さんの発表を紹介し終えたと勘違いしていましたが,実は紹介しきれていなかったことに気づき,急きょ追加を。
1.畝山智香子さんの発表

  • では,リスクの大きさを比べてみると,食品関連物質のリスクとはどんなカテゴライズになるのか,を定性的に示してある。

  • 上の表より,①MOEでもDALYでも,他のどのような手法を用いても,残留農薬食品添加物より一般食品の方がはるかにリスクが大きいこと,つまり,②一般食品のリスクはゼロではないことを説明されていた。
  • さらに,その一般食品の安全マージンを実際に計算してみると「10」程度。残留農薬食品添加物の安全マージンはそれ以上(数千とか数万とかのオーダー)あるため,それらが食全体のリスクに影響しないことは明らか。よって,残留農薬食品添加物のリスクに対して敏感になりすぎるのはよくない。という感じのお話もあったと思う。
  • まとめとして4つのトピックを挙げられていた。①食品安全上の事件や事故として報道されていることは必ずしもリスクの大きさと関係しているわけではない。(井上:まさに,メディアのバイアスがかかった状態で我々のところに届くということ。これは松永さんのところで頻繁に訴えられていた点)。②メディア報道を頼りにリスク回避を行っても,実質的にはリスク削減効果はない。(井上:必ず削減効果がないとは言い切れないと思うけれど,全く的外れのことを言っているのは氷山の一角で,隠れているところに膨大な数の“リスク削減が不必要だと思われるリスクを削減”させようとしている可能性がある)。③効果のないリスク削減対策は無駄であるだけでなく,その資源を使って救済できたはずの被害を与える行為と同等であることを自覚する必要がある(井上:これがまさに,現在問題になっている,潜在的リスクトレードオフ。リスク対リスクという構図にすると,日常生活ではなかなか見つかりにくいと思うけれど,リスク対コストという構図にすると,結構日常でも思いつく行動はたくさんある)。④限られた資源・時間・人間を有効に活用して,公衆衛生上のリスクを管理するためには,定量的リスク評価が必須。(井上:どこまで定量的にやるのか,という判断を評価するのも必須だろう。データのない中で,色々と推定して,コストも時間を使って,定量評価を貫き通そうとするのは,そこにもリスクトレードオフ(不確実性の大きさトレードオフもある気がします)を生じさせる問題があるのでは,というのが一点。そしてもう一点は定量的にしなければと思えば思うほど,分かりにくいリスク評価になっていないか,ということに気をつけないといけないと最近思い始めているのがもう一点。)

2.永山敏廣さんの発表

  • 保存用に用いる薬剤は添加物とみなされるため,農薬取締法ではなく,食品衛生法で規制されている。
  • 農産物に残留する農薬の規制として,大きく二つの法律を挙げられていた。一つが農薬取締法,そしてもう一つが食品衛生法である。そして,それぞれの法律の役目は,

・ 農薬取締法→農家を規制
   1.農薬の品質確保
   2.農薬の使用規制(登録制度)
・ 食品衛生法→消費者を守る
   1.食品の安全性の確保(販売等禁止)
   2.食品規格(残留基準)の設定
という構図らしい。そうか,被規制主体はこういう分け方になるのか。

  • 農薬を使用しないで栽培すると,どの程度収穫量が減るのか,を作物ごとに定量化しているスライドがあった。すべてを書き留めることができたわけではないが,

農薬を使わないと,収穫量はどの程度に落ち込むのか?
水稲:76%,りんご:3%,柿:25%,キャベツ:33%,きゅうり:39%,トマト:64%,大根:61%
日本植物防疫協会の資料より

どうやら,農業協同組合新聞にも,同様の記載がある。こちら→「農薬を使わないと農作物の収量はどうなるのか」 農薬を用いることによるリスクベネフィットはこういったデータから求めているのだろうか。ベネフィットは分かりやすい。けれども,生態系へのリスクってどうやって評価するんだろう?ベネフィットと天秤にかけるには,やっぱりインパクト評価+統合評価が必要なんだろうか。

雑草の手取りに使う時間
1949年:50.6時間/10a → 2005年:1.6時間/10a

これは重機を使っての除草時間を加味しているのだろうか?それを加味しているかしていないかによって,農薬による純粋なベネフィットが算出できない。